CDG-HNDな遠距離国際恋愛日記

パリと東京。Aさんとわたし。

無駄な学びの話

よく聞く話ですが、大学での必修の第2外国語*1に対する反対意見というのはとても根強いですね。実際に第2外国語を必修にしない大学も増えています。

例えば、現在フランス語で生活されている(おそらくトライリンガルな)方は、フランス語を必修の第2外国語として学習することには意味がないと感じてらっしゃるようです。その方の結論は、こうです。

第2外国語が必修科目にされている学生は、勉強しないわけにはいきません。第2外国語の勉強は最小限にとどめておいて、本当に自分のためになるものを学習したほうが有意義です。

大学院で研究する際に、英語以外の言語が読めると便利という理由もあるのでしょうが、それなら研究者になってから勉強を始めてもいいと思うんです。

言語は習得するまでに、膨大な時間とエネルギーがかかります。一生をかけて学び続けるものです。趣味や遊びとして外国語を学ぶという人もいますが(それはそれでいいと思います)、”さわり”程度に外国語を学習することに価値があるとはやはり、どうしても思えません。 

大学で第2外国語を必修にするほど、無意味なことないでしょ? - マダム・リリー

このような結論に至る理由として著者の方は、

  1. 大学で学習する2年(あるいは1年)では使い物にならないこと
  2. 他に勉強すべきことはあるはずなこと(英語およびプログラミング)

を挙げてらっしゃるかと思います。

使い物にならないこと

外国語が2年の学習で使い物にならないことは、それが事実であることを認めるとしても*2、学び始めないことの理由にはならないということも同意していただけるかと思います。2つの場面に分けて言いたいと思います。

1. 特に特定の分野の研究者や通訳者や翻訳者は、言語を道具として使いますので、まず研究者・通訳者・翻訳者になってから学習し始めるというわけにはいきません。語学ができて初めて仕事ができるようになる職業を目指すのであれば、使い物になろうがなるまいが大学1年で第2外国語を習得せざるを得ません*3

2. しかしすべての人が言語のプロになるわけではありません。そうならない人に、使い物にならない言語の習得を強いるのは無駄ではないかという点は残ります。上記のブログ記事の著者の方も同意してくださると思うのですが、何かを「必修で学ぶことが無駄」かどうかは、立場によって分かれるように思いますし、無駄と感じるかどうかはその後の人生から振り返って初めて決まるのでしょう。さらに言えば、習っているときや、その直後には無駄に感じられたことが後から役に立つことだってあるでしょう。わたしの場合、線形代数がそうでした。

そして何より、使い物にならないことをもってすぐに「無駄な学びであった」と結論づけるのは、学びということの本質的な部分を捉え残っているように感じます。

すぐに役立つことを学ぶこと

英語やプログラミングがすぐに役立つ知識として習得されるべきであるという論点にも、いくつかの留保を必要とするように思います。まず上記のことからご理解いただけると思うのですけれど、英語もプログラミングも学ぶに値するとわたしは思います。現にわたし達の生活は英語の尽きることのない学習に依存しているわけです。

 

cdghnd.hatenablog.com

 

ここでわたしが論じたいのは、英語もプログラミングも「役立つ」という観点からは、非英語第2外国語の学習と変わらないということです。

わたしは、小中高大と一貫して英語を勉強してきました。英語は、おそらく、大学で学習すると卒業後すぐに役立つとしても、それはそれまでの学習の蓄積の上に成り立っているからです。ここで道は2つに分かれるように思います。

  1. 「2〜3年やったところでたかが知れている」論法を小学校に当てはめ、中学校に当てはめ、高等学校に当てはめて……いくパターンです。これはあまり愚かですから、考えないことにします。(とはいえ、英語が苦手だと思っている方にはこのように考えている方が少なくないように思われます。)
  2. これまでの蓄積を活かすために、持てる知的資産を英語に集中すべきだと考えるパターンです。

2のパターンは一見すると説得力がありますが、ここにもう1つの問題があります。それは、「今役に立つ」という知識は陳腐化するということです。英語が支配的な言語になったのは比較的最近(人生の半分以下だった人もいる程度)のことです。英語一強の時代はどれほど続くかはわかりませんが、しかし職業人生のどこかで英語は主要な言語の1つに地位を落とすことも十分に考えられることです。

プログラミングについてはその陳腐化のスピードがもっと速いのです。わたしが小学校から高校でならったBASICという言語は使っている人はもうほとんどいないでしょうし、大学で習ったJAVAの構文は今では当時とだいぶ変わっているようです。「すぐ役に立つ」レベルの知識は、すぐ陳腐化するのです。陳腐化しないのは、アルゴリズムなどの抽象的な技法についての知識です。さてこれが役に立つか。むずかしいところです。少なくとも第2外国語について挙げられた「習得するまでに、膨大な時間とエネルギーがかかります。一生をかけて学び続けるもの」であることは間違いないように思います。

役に立つかどうかと関係なく、学ぶ理由はあれども、学ばない理由などない。おそらく英語やプログラミングはあるのでしょう。第2外国語もそこに加えていただければ良いなと思います。

必修であること

さてこれまでの議論は、「第2外国語を学ぶ理由はあるけれど、学ばない理由はない」という程度の議論でした。しかし「学びたい人だけ学べばよくて、必修である必要はないでしょう」という論点については一切考えてきませんでした。

最近は第2外国語を必修にしない大学も多いのですが、万一、必修になっている大学に進学してしまった場合、無駄な単位*4を取ることになるのでしょうか。

大前提ですが、基本的には何を必修にするかは、大学や学部の決めることです。受験生の皆さんは公開されているシラバスや履修要項をご覧になることをおすすめしたいのです。つまり本当に「絶対第2外国語は無駄だ」と思うのであれば、それを課す大学は受験しないことになります。

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語学留学は楽しいよ

それでも必修で新しい外国語の基礎を学んでみることは、良いことだと思います。もしかしたら英語よりあなたに向いているかもしれない。もしかしたら英語についてより立体的な理解が得られるかもしれない。もしかしたら「国際化」は英語化と違うことを意味しないといけないと納得できるかもしれない。これらの可能性を気づかずに大学を卒業してしまうのはもったいない、そう思うからです。

*1:「第2外国語」ということで、英語以外の言語を自動的に指すことに、わたしは強固に反対したいと思います。少なくともわたしは、ドイツ語を学ぶことを先にはじめましたので、英語がわたしにとっての第2外国語です。

*2:実際には、「使える」にも色々なレベルがあります。B1のレベルであれば、必修の授業で十分動機づけられた学生であれば到達するはずです。

*3:ちなみに、言語のプロが「すべての人が(第2)外国語を学ぶ必要がないのではないか」と言い出したときには、わたしは注意深くなるようにしています。それは結局、その方の市場での優位性を言いたいだけかもしれませんから。

*4:週2コマだと、2時間の講義を2つと4時間の予習復習が想定されています